庭木を自分で切る前に
― 死亡災害の6割は、この作業で起きています
まず、数字を見てください
林業は、日本でもっとも労働災害の多い業種のひとつです。
休業4日以上のケガでは、原因として立木等が約3割、チェーンソーが約2割を占めます。
これは、装備を持ち、教育を受け、毎日やっている人たちの数字です。
庭で年に一度チェーンソーを握る人が、それより安全だという理由はありません。
いちばん多い死に方は「切っている最中」ではありません
チェーンソーと聞くと、刃で自分を切る事故を想像します。もちろんそれもありますが、伐木作業で人が亡くなる代表的な原因は別にあります。
倒れてきた木、そして「かかり木」です。
切った木が最後まで倒れず、途中で隣の木や電線、屋根に引っかかって止まった状態のことです。
林業・木材製造業労働災害防止協会は、これを伐倒作業の中で最も危険な作業の一つとしています。理由は単純で、いつ落ちてくるか分からないから。そして落ちてくる先には、たいてい外そうとしている自分がいます。
同協会は、かかり木の処理について次の6つを禁止事項として挙げています。
| 禁止されている方法 | 理由 |
|---|---|
| かかられている木(受け止めている側)を切る | かかり木がいつ落ちてくるか分からない |
| 浴びせ倒し(投げ倒し) | 予期しない方向へ跳ね返る |
| 元玉切り(根元を輪切りにする) | 切り離した瞬間に落下・滑落する |
| かかられている木の枝を切る | 登った作業者が落ちる |
| 肩で担いで外す | 滑落・転倒する |
| そのまま放置する | あとから通った人に落ちる |
引っかかったら、下の木を切ればいい。押して落とせばいい。根元を切れば落ちるだろう。担いで動かせばいい。今日は無理だから明日にしよう。——全部、禁止されています。
プロがやっても死ぬから禁止されているのであって、慣れれば大丈夫という話ではありません。
国が引いている線は、思ったより低い位置にあります
仕事としてチェーンソーで木を切る場合、労働安全衛生規則の対象になります。近年の改正で、要求水準ははっきり上がりました。
| 施行 | 内容 |
|---|---|
| 2019年8月1日 | チェーンソー作業では下肢の切創防止用保護衣(防護ズボン)の着用が義務に |
| 2019年8月1日 | 受け口を作る義務の対象が、胸高直径40cm以上から20cm以上に拡大 |
| 2019年8月1日 | かかり木の速やかな処理を義務化。処理の禁止事項を規定 |
| 2020年8月1日 | 木の直径などで分かれていた特別教育の区分を統合 |
胸の高さ(地上およそ1.2m)で測った幹の直径が20cm。メジャーで幹をぐるっと巻いて約63cmあれば、これに当たります。
庭にある少し古い木なら、たいてい超えています。そしてこの太さは、秦野市の補助金の対象条件とも一致します。市が「危険木」と呼ぶ太さと、国が「受け口を作れ」と義務づける太さが、同じ20cmなのは偶然ではありません。
これらは事業者と労働者に向けた規定なので、自宅の庭木を自分で切る個人に直接かかるものではありません。ただし、国がどこに危険の線を引いたかは、そのまま参考にできます。
見積は無料です。金額を知らないまま「たぶん高いから自分で」と決めるより、数字を見てから判断したほうが確実です。補助金を使えば、対象経費の2分の1・上限10万円が戻る可能性もあります。
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自分で切っていい木・やめたほうがいい木
判断の目安をまとめます。右の列に1つでも当てはまったら、そこで止まってください。
| 項目 | 自分でも現実的 | やめたほうがいい |
|---|---|---|
| 高さ | 3m未満 | 3m以上/脚立やはしごが要る |
| 幹の太さ | 胸高直径10cm未満 | 胸高直径20cm以上(幹周り約63cm以上) |
| 倒す方向 | どちらに倒れても何もない | 電線・隣地・道路・建物・車のいずれかがある |
| 周囲の木 | 単独で立っている | 隣に木があり、かかり木になり得る |
| 木の状態 | 健全でまっすぐ | 傾いている・腐っている・空洞がある |
| 作業する場所 | 平らな地面 | 斜面・足場が悪い・逃げ道がない |
そういう木ほど切りたくなるのですが、そういう木ほど自分でやってはいけません。→ 危険な木の見分け方
お金の面でも、自分でやると損をすることがあります
安全の話とは別に、金銭面でも3つ引っかかる点があります。
- 秦野市の補助金が使えません──同市の危険木伐採等補助事業は、申請者の条件に「造園業者等の専門事業者に委託すること」を挙げています。自分で切った場合は対象外です。対象経費の2分の1・上限10万円が消えます
- 自分がケガをしても、労災は出ません──仕事ではないためです。傷害保険の対象になるかは契約次第で、危険な作業として除外されていることもあります
- 隣家や電線を壊した場合──賠償は民法717条・709条の世界です。自分の家の屋根を壊した場合は、そもそも賠償ではなく自費の修理になります
切ったあと、その木はどこへ行くのか
意外と見落とされるのがここです。切るのは半日でも、処分は残ります。
・1本の太さ 10センチ以下
・長さ 80センチ以下
・1束の直径 50センチ以内
つまり太さ10センチを超える幹は、この方法では出せません。80センチずつに切り分ける手間も、量が増えると相当なものになります。
また、集積所には一度に多量のごみを出せません。量が多い場合は、草木類の処理業者へ自己搬入(有料)などの対応が必要です。詳しくは秦野市の環境資源対策課(0463-82-4401)へご確認ください。
業者に頼んだ場合、この処分費は見積に含まれているのが普通です。「切る手間」だけを比べると、判断を誤ります。
それでも自分でやるなら
細い木を切る場合の最低限です。
- 防護ズボン・ヘルメット・保護メガネ・手袋──業務では防護ズボンは義務です
- 一人でやらない──何かあったときに呼べる人がいるかどうかで結果が変わります
- 逃げ道を2方向つくる──倒す方向の斜め後ろ45度に、あらかじめ足元を片付けておく
- 風の強い日はやらない──倒れる方向が読めません
- 引っかかったら、そこで手を止める──かかり木の6つの禁止事項を思い出してください
そして、少しでも「これは大きいな」と感じたら、そこが線です。
よくある質問
庭木を自分で切ってもいいですか?
「かかり木」とは何ですか?なぜ危険なのですか?
チェーンソーを使うのに資格は必要ですか?
自分で切ると、秦野市の補助金は使えますか?
切った枝や幹は、ごみに出せますか?
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根拠:厚生労働省「林業の伐木作業における労働災害防止」(死亡者数年間40人前後・死亡災害の約6割がチェーンソーによる伐木作業時・休業4日以上は立木等約3割/チェーンソー約2割)/林業・木材製造業労働災害防止協会「かかり木処理作業の安全」(禁止事項6項目)/労働安全衛生規則の一部改正(2019年8月1日・2020年8月1日施行/下肢の切創防止用保護衣、受け口の対象を胸高直径20cm以上に拡大、かかり木処理の義務化、特別教育の統合)/秦野市「危険木伐採等補助事業」(造園業者等への委託が条件・2分の1・上限10万円)/秦野市「資源とごみの分け方・出し方 品目リスト」(せん定枝:太さ10cm以下・長さ80cm以下・1束の直径50cm以内)/秦野市 環境資源対策課 0463-82-4401