倒木で隣家を壊したら誰が払う?
― 民法717条と「不可抗力」の境目
根拠になる条文:民法717条(工作物責任)
土地の工作物の設置または保存に瑕疵(かし)があって他人に損害を与えたとき、その工作物の占有者が賠償責任を負い、占有者が必要な注意をしていたときは所有者が責任を負う、という規定です。
裁判例①:風速35mの台風でも、「不可抗力」は通りませんでした
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい話です。
台風4号の接近中、国道沿いの街路樹(ケヤキ)が倒れ、走行していた乗用車を直撃した事故がありました。近隣の観測地点では最大瞬間風速35.5mを記録していた日です。
道路管理者である県は「台風による不可抗力だ」と主張しました。
理由は、その木にベッコウタケ(腐朽菌)の子実体、つまりキノコが生えていて、外から容易に見える状態だったこと。見えていたのだから予見できたし、対処もできたはずだ、という判断です。
県側は「異常は見落とされていない」とも主張しましたが、事故後の点検で隣の木からも腐朽菌が見つかったことから、この主張も退けられました。
(熊本地裁 平成21年7月14日判決。賠償額は車の所有者に178万6,527円、運転者に31万1,070円)
裁判例②:枯れた木を4〜5年放置した結果、賠償はおよそ5,000万円
もう1件、規模が大きく違う事例です。
県道沿いの私有地に生えていたカシ類の木が倒れ、走行中の自動車を直撃。運転していた方が亡くなりました。あとから樹木医が調べたところ、その木は4〜5年前にはすでに枯れていたと判断されています。
| 訴えられた相手 | 裁判所の判断 |
|---|---|
| 土地(木)の所有者 | 民法709条・717条に基づく損害賠償責任を認定 |
| 道路管理者(市) | 私有地からの倒木の危険性を把握していたのに防護柵などの対策を取らなかったとして、国家賠償法2条1項の責任を認定 |
認められた賠償は、ご遺族への各110万円に加え、被害者が加入していた保険会社へ4,776万2,362円。合計でおよそ5,000万円です。
(熊本地裁 令和3年6月23日 → 福岡高裁 令和4年1月28日 → 最高裁 令和4年12月22日 上告棄却で確定)
1. 道路沿いの木は、桁が違います。
隣家の屋根なら数十万円〜数百万円。しかし道路に面していれば、走ってくるのは車と人です。金額の上限が一気に外れます。
2. 「市も知っていた」は、自分の免責になりません。
この件では市にも責任が認められましたが、それによって所有者の責任が消えたわけではありません。両方が責任を負う、という結論です。
「瑕疵あり」と判断されやすいケース
| 状況 | 評価されやすい方向 |
|---|---|
| 幹にキノコ、空洞、大きな裂け目があった | 瑕疵あり |
| 明らかに傾いていた/根元が浮いていた | 瑕疵あり |
| 枯れ木のまま何年も放置していた | 瑕疵あり |
| 近隣から指摘・要望を受けていた | 瑕疵あり(悪質) |
| 健全な木が、観測史上級の暴風で倒れた | 不可抗力の可能性 |
そもそも、誰が責任を負うのか
「所有者」と一言で言っても、実家の木ではここが複雑になりがちです。
| 状況 | 誰に責任が向くか |
|---|---|
| 自分が住んでいる家の庭木 | 占有者=所有者。自分です |
| 人に貸している土地・建物 | まず占有者(借りている人)。占有者が必要な注意をしていたときは所有者が負います |
| 兄弟で共有している実家 | 共有者それぞれ。「自分は関与していない」は通りにくい |
| 相続したが名義を変えていない | 登記が亡くなった親のままでも、実際に相続した人が責任を問われ得ます |
| 誰も住んでいない空き家の木 | 所有者。むしろ管理していない分、瑕疵が認められやすい方向です |
「名義を変えていないから、まだ自分のものではない」と考えている方がいますが、責任の話では通用しません。むしろ誰も見に行っていない木ほど、腐朽が進んで倒れます。相続した山林・敷地の木は、一度見ておいてください。
失火責任法は使えるか
火事については「失火ノ責任ニ関スル法律」により、重過失がなければ賠償責任を負いません。ただしこれは失火の話で、倒木には適用されません。倒木は717条の世界です。「火事なら許されるのに」という感覚は通用しないと考えてください。
保険はどう動くか
| 立場 | 使える可能性のある保険 |
|---|---|
| 倒された側(建物が壊れた) | 自分の火災保険の風災補償。相手の責任を待たずに修理できることが多い |
| 倒した側(木の所有者) | 個人賠償責任保険。火災保険・自動車保険・クレジットカードの特約として付いていることが多い |
※ 補償の有無・範囲は契約により異なります。必ずご自身の証券と保険会社にご確認ください。
道路や電線に倒れたときは、どこに言うか
秦野市内で、木が道路や電線に関わる形で倒れた(倒れそうな)場合の連絡先を整理しておきます。
| 状況 | 連絡先 |
|---|---|
| 電線・電柱に接触している/停電した | 東京電力パワーグリッド 0120-995-007(24時間) 0120が使えない場合は 03-6375-9803 |
| 市道をふさいでいる | 秦野市役所 0463-82-5111(代表)から道路の担当課へ |
| 県道の場合 | 管理は神奈川県(平塚土木事務所)。市の窓口は建設部 国県事業推進課 0463-82-5746 |
| 人がケガをしている・危険が差し迫っている | 119番/110番 |
いつまで請求されるのか(時効)
「もう何年も前のことだから」で終わるとは限りません。
| 種類 | 期間 |
|---|---|
| 物が壊れた場合 | 損害と加害者を知った時から3年 |
| 人がケガをした・亡くなった場合 | 損害と加害者を知った時から5年 |
| いずれも上限 | 不法行為の時から20年 |
裁判例②の事故も、一審の判決が出るまでに年単位の時間がかかっています。「倒れた瞬間に終わる話ではない」と考えておいてください。
いま何をすべきか
自分の木が心配な場合
隣の木が心配な場合
- 写真を撮る(日付が分かる形で)
- 書面で所有者に伝える——これが後の全てを決めます
- 越境している枝は、条件を満たせば自分で切ることもできます
倒れてからでは、費用は伐採代では済みません。相手の建物・車・場合によっては人。まず無料見積で、いま切るならいくらかを確かめてください(東証上場企業運営・24時間受付)。
無料で伐採の見積を依頼する1本5,000円〜・見積後の追加料金なし秦野市の補助金(上限10万円)の対象確認は → 補助金ページへ
実際に倒れてしまったら、その日にやること
順番が決まっています。慌てているときほど、ここを飛ばしがちです。
- 人の安全を確認する──ケガ人がいれば119番
- 電線を確認する──倒木の下に線が隠れていることがあります。垂れ下がった線があれば近づかず、東京電力パワーグリッドへ
- 写真を撮る──全体・根元の断面・被害箇所。根元の断面は必ず撮ってください。腐っていたかどうかが、あとで最大の争点になります
- 相手方に連絡する──謝罪と、賠償の約束は別です。その場で金額を約束しない
- 自分の保険会社に電話する──火災保険・自動車保険・クレジットカードの特約に個人賠償責任保険が付いていないか確認
- 撤去は、写真を撮ってから──先に片付けてしまうと、状態を証明する材料がなくなります
よくある質問
台風で自宅の木が倒れて隣家を壊しました。弁償が必要ですか?
火災保険で直せますか?
隣の木が倒れてきそうです。先に何かできますか?
市に言えば切ってもらえますか?
台風の日に倒れたのに、なぜ責任を問われるのですか?
道路沿いに木がある場合、リスクはどのくらい変わりますか?
名義が亡くなった親のままでも、責任を負いますか?
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