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倒木で隣家を壊したら誰が払う?
― 民法717条と「不可抗力」の境目

最終更新:2026年9月5日 / 運営:ミチアカリ制作所
「台風で倒れたのだから、自分のせいではない」——通ることもあれば、通らないこともあります。分かれ目はたった一つ、「倒れる危険を事前に知り得たかどうか」です。腐って傾いていた木を何年も放置していたなら、台風はきっかけにすぎない、と判断され得ます。

根拠になる条文:民法717条(工作物責任)

土地の工作物の設置または保存に瑕疵(かし)があって他人に損害を与えたとき、その工作物の占有者が賠償責任を負い、占有者が必要な注意をしていたときは所有者が責任を負う、という規定です。

ここが重要です。717条の所有者責任は無過失責任と解されています。つまり「知らなかった」「悪気はなかった」では免れません。竹木の栽植・支持の瑕疵にも同条が準用されます。庭木は「放っておいてよい私物」ではなく、管理義務のある工作物に近い扱いだと考えてください。

裁判例①:風速35mの台風でも、「不可抗力」は通りませんでした

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい話です。

台風4号の接近中、国道沿いの街路樹(ケヤキ)が倒れ、走行していた乗用車を直撃した事故がありました。近隣の観測地点では最大瞬間風速35.5mを記録していた日です。

道路管理者である県は「台風による不可抗力だ」と主張しました。

裁判所は、これを認めませんでした。

理由は、その木にベッコウタケ(腐朽菌)の子実体、つまりキノコが生えていて、外から容易に見える状態だったこと。見えていたのだから予見できたし、対処もできたはずだ、という判断です。

県側は「異常は見落とされていない」とも主張しましたが、事故後の点検で隣の木からも腐朽菌が見つかったことから、この主張も退けられました。

(熊本地裁 平成21年7月14日判決。賠償額は車の所有者に178万6,527円、運転者に31万1,070円)
読み替えると、こうなります。

「風が強かったから」は、免罪符になりません。裁判所が見るのは、風の強さではなく、倒れる前にサインが出ていたかどうかです。

そしてそのサインの筆頭が、根元のキノコでした。

裁判例②:枯れた木を4〜5年放置した結果、賠償はおよそ5,000万円

もう1件、規模が大きく違う事例です。

県道沿いの私有地に生えていたカシ類の木が倒れ、走行中の自動車を直撃。運転していた方が亡くなりました。あとから樹木医が調べたところ、その木は4〜5年前にはすでに枯れていたと判断されています。

訴えられた相手裁判所の判断
土地(木)の所有者民法709条・717条に基づく損害賠償責任を認定
道路管理者(市)私有地からの倒木の危険性を把握していたのに防護柵などの対策を取らなかったとして、国家賠償法2条1項の責任を認定

認められた賠償は、ご遺族への各110万円に加え、被害者が加入していた保険会社へ4,776万2,362円。合計でおよそ5,000万円です。

(熊本地裁 令和3年6月23日 → 福岡高裁 令和4年1月28日 → 最高裁 令和4年12月22日 上告棄却で確定)

この事例から読み取れることは、2つあります。

1. 道路沿いの木は、桁が違います。
隣家の屋根なら数十万円〜数百万円。しかし道路に面していれば、走ってくるのは車と人です。金額の上限が一気に外れます。

2. 「市も知っていた」は、自分の免責になりません。
この件では市にも責任が認められましたが、それによって所有者の責任が消えたわけではありません。両方が責任を負う、という結論です。

「瑕疵あり」と判断されやすいケース

状況評価されやすい方向
幹にキノコ、空洞、大きな裂け目があった瑕疵あり
明らかに傾いていた/根元が浮いていた瑕疵あり
枯れ木のまま何年も放置していた瑕疵あり
近隣から指摘・要望を受けていた瑕疵あり(悪質)
健全な木が、観測史上級の暴風で倒れた不可抗力の可能性
「近隣から言われていたのに放置した」が最悪のパターンです。危険を知っていた証拠が相手側に残っているため、不可抗力の主張はほぼ通りません。逆に言えば、被害を受ける側は「書面で伝えて記録を残す」ことが最大の備えになります。

そもそも、誰が責任を負うのか

「所有者」と一言で言っても、実家の木ではここが複雑になりがちです。

状況誰に責任が向くか
自分が住んでいる家の庭木占有者=所有者。自分です
人に貸している土地・建物まず占有者(借りている人)。占有者が必要な注意をしていたときは所有者が負います
兄弟で共有している実家共有者それぞれ。「自分は関与していない」は通りにくい
相続したが名義を変えていない登記が亡くなった親のままでも、実際に相続した人が責任を問われ得ます
誰も住んでいない空き家の木所有者。むしろ管理していない分、瑕疵が認められやすい方向です
いちばん危ないのが、下から2番目です。

「名義を変えていないから、まだ自分のものではない」と考えている方がいますが、責任の話では通用しません。むしろ誰も見に行っていない木ほど、腐朽が進んで倒れます。相続した山林・敷地の木は、一度見ておいてください。

失火責任法は使えるか

火事については「失火ノ責任ニ関スル法律」により、重過失がなければ賠償責任を負いません。ただしこれは失火の話で、倒木には適用されません。倒木は717条の世界です。「火事なら許されるのに」という感覚は通用しないと考えてください。

保険はどう動くか

立場使える可能性のある保険
倒された側(建物が壊れた)自分の火災保険の風災補償。相手の責任を待たずに修理できることが多い
倒した側(木の所有者)個人賠償責任保険。火災保険・自動車保険・クレジットカードの特約として付いていることが多い

※ 補償の有無・範囲は契約により異なります。必ずご自身の証券と保険会社にご確認ください。

道路や電線に倒れたときは、どこに言うか

秦野市内で、木が道路や電線に関わる形で倒れた(倒れそうな)場合の連絡先を整理しておきます。

状況連絡先
電線・電柱に接触している/停電した東京電力パワーグリッド 0120-995-007(24時間)
0120が使えない場合は 03-6375-9803
市道をふさいでいる秦野市役所 0463-82-5111(代表)から道路の担当課へ
県道の場合管理は神奈川県(平塚土木事務所)。市の窓口は建設部 国県事業推進課 0463-82-5746
人がケガをしている・危険が差し迫っている119番/110番
倒れる前でも、電話していい話です。台風の前に見ておく3か所と、電線にかかった枝の扱いはこちらにまとめました

いつまで請求されるのか(時効)

「もう何年も前のことだから」で終わるとは限りません。

種類期間
物が壊れた場合損害と加害者を知った時から3年
人がケガをした・亡くなった場合損害と加害者を知った時から5年
いずれも上限不法行為の時から20年

裁判例②の事故も、一審の判決が出るまでに年単位の時間がかかっています。「倒れた瞬間に終わる話ではない」と考えておいてください。

いま何をすべきか

自分の木が心配な場合

  1. 7つのサインで状態を確認する
  2. 該当するなら見積を取る(「危険と知った」時点から責任の時計が動き始めます
  3. 秦野市の補助金の要件に当たるか確認する(2分の1・上限10万円)

隣の木が心配な場合

  1. 写真を撮る(日付が分かる形で)
  2. 書面で所有者に伝える——これが後の全てを決めます
  3. 越境している枝は、条件を満たせば自分で切ることもできます
「危険かもしれない」で止まっているうちに、金額を知る

倒れてからでは、費用は伐採代では済みません。相手の建物・車・場合によっては人。まず無料見積で、いま切るならいくらかを確かめてください(東証上場企業運営・24時間受付)。

無料で伐採の見積を依頼する1本5,000円〜・見積後の追加料金なし

秦野市の補助金(上限10万円)の対象確認は → 補助金ページへ

実際に倒れてしまったら、その日にやること

順番が決まっています。慌てているときほど、ここを飛ばしがちです。

  1. 人の安全を確認する──ケガ人がいれば119番
  2. 電線を確認する──倒木の下に線が隠れていることがあります。垂れ下がった線があれば近づかず、東京電力パワーグリッドへ
  3. 写真を撮る──全体・根元の断面・被害箇所。根元の断面は必ず撮ってください。腐っていたかどうかが、あとで最大の争点になります
  4. 相手方に連絡する──謝罪と、賠償の約束は別です。その場で金額を約束しない
  5. 自分の保険会社に電話する──火災保険・自動車保険・クレジットカードの特約に個人賠償責任保険が付いていないか確認
  6. 撤去は、写真を撮ってから──先に片付けてしまうと、状態を証明する材料がなくなります
3番と6番が、あとで効いてきます。裁判例①で決め手になったのは「キノコが外から見えていた」という事実でした。逆に言えば、健全な木だったことを示せるのも写真だけです。撤去業者が来る前に、スマホで撮っておいてください。

よくある質問

台風で自宅の木が倒れて隣家を壊しました。弁償が必要ですか?
民法717条の工作物責任が問われる可能性があります。木の設置・保存に瑕疵(腐朽や傾きを放置していたなど)があれば、所有者は損害賠償責任を負います。一方、健全な木が想定外の暴風で倒れた場合は不可抗力として責任を免れることがあります。分かれ目は「事前に危険を知り得たか」です。
火災保険で直せますか?
被害を受けた側は、自分の火災保険(風災補償)で建物の修理費が出ることが多いです。倒木させた側については、個人賠償責任保険に加入していれば賠償金がカバーされることがあります。火災保険や自動車保険の特約として付いている場合が多いので、契約内容を確認してください。
隣の木が倒れてきそうです。先に何かできますか?
写真を撮り、書面で所有者に危険を伝えて対処を求めてください。この記録が、実際に倒れたときに「危険を知りながら放置していた」ことを示す証拠になります。緊急の危険があれば、越境した枝は民法233条3項により自分で切ることもできます。
市に言えば切ってもらえますか?
民有地の木は原則として所有者の責任で管理します。ただし道路や公共施設に支障がある場合は市の担当課が関与することがあります。秦野市には危険木伐採等補助事業があり、要件を満たせば費用の2分の1・上限10万円の補助を受けられます。
台風の日に倒れたのに、なぜ責任を問われるのですか?
裁判所が見るのは風の強さではなく、倒れる前に危険のサインが出ていたかどうかだからです。最大瞬間風速35.5mを記録した台風での街路樹倒木事故でも、幹に腐朽菌のキノコが外から見える状態だったことを理由に、不可抗力の主張は認められませんでした(熊本地裁 平成21年7月14日判決)。逆に、健全な木が想定外の暴風で倒れた場合は不可抗力と判断される余地があります。
道路沿いに木がある場合、リスクはどのくらい変わりますか?
桁が変わります。県道沿いの私有地の木が倒れて走行中の車を直撃し、運転手が亡くなった事故では、土地所有者に民法709条・717条の責任が認められ、遺族への各110万円に加えて保険会社へ4,776万2,362円の支払いが命じられました(熊本地裁 令和3年6月23日、福岡高裁 令和4年1月28日、最高裁 令和4年12月22日上告棄却)。この件では道路管理者にも国家賠償法2条1項の責任が認められましたが、それによって所有者の責任がなくなるわけではありません。
名義が亡くなった親のままでも、責任を負いますか?
登記が変わっていなくても、実際に相続した人が責任を問われ得ます。「まだ自分のものではない」という説明は、被害者に対しては通りにくいと考えてください。また誰も住んでいない空き家の木は、管理されていないぶん瑕疵が認められやすい方向に働きます。相続した敷地に大きな木がある場合は、名義の手続きと合わせて一度状態を見ておくことをおすすめします。

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